大判例

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福岡地方裁判所久留米支部 昭和45年(ワ)131号 判決 1973年1月16日

原告

池松倉吉

右訴訟代理人

大石幸二

外一名

被告亡後藤敬吉訴訟承継人

後藤シゲノ

外五名

右六名訴訟代理人

川口彦次郎

主文

原告が、被告ら所有の別紙目録記載の土地部分につき、車両を通行させるための囲繞地通行権を有することを確認する。

被告らは原告が車両を通行させるために右土地部分を使用することを妨害してはならない。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部被告らの負担とする。

事実

一、申立

(原告)

1  原告が被告ら所有の別紙目録記載の土地部分につき囲繞地通行権を有することを確認する。

2  被告らは原告が右土地部分を通行することを妨害してはならない。

3   訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

二、主張

(原告の請求原因)

1  三潴郡城島町大字江上上字大中島三〇五番田二畝歩(一九八平方メートル)、同所三〇六番田三畝八歩(三二三平方メートル)、同所三〇七番一宅地二八坪(92.56平方メートル)は、いずれも原告の所有である。

2  従前右原告所有地からは、別紙図面表示F点(右三〇五番の四の北東の角)から三〇五番(原告所有)、三一一番、三〇四番、三〇三番(以上いずれも被告所有)の各土地の北側及び西側に沿つて南西方町道D点達するF・C・B・D間の巾約二メートル長さ約一二〇メートルの通路があり、原告は長年右通路を通行して来た。

3  ところが被告らの先代後藤敬吉は、昭和四三年一月項、自宅の屋敷入口から順次南方に続くその所有地三一一番、三〇四番、三〇三番の田をまつすぐに横断する巾約3.5メートル長さ約60.5メートルの通路(別紙図面表示のB点からA点に至る通路部分)を新たに開放し、その後間もなく前項掲記の旧通路は巾約六〇センチメートルだけ残してそれ以外を取りつぶしてしまつた。(尤も同人はその後これを巾約一メートルにひろげた。)

しかし同人及びその相続人である被告ら(敬吉は昭和四五年一月二九日死亡した。)は、新しく開設されたB・A間の通路を原告が通行することを肯じない。

4  前掲三筆の原告所有地は、四囲を他の土地と水路とに囲まれたいわゆゆる袋地で、わずかにF・C・B・D間の旧通路によつて町道に通じていたが、右旧通路は被告先代のほしいまゝな取りつぶしによつて現在巾一メートルを有するにすぎなくなつている。

5  原告は前掲三〇七番一の宅地に居住し、前掲三〇五番、三〇六番の田のほか、これと隔たる別の場所に所有する約一反歩の農地を耕作しているもので、そのために肥料・農機具や収穫物を運搬することは不可欠であり、従つて右宅地と町道との間に最低限リヤカーの通れる通路が必要である。そればかりでなく、近年の自動車の増加普及の実情からすると、少くとも普通乗用車が自宅に出入できるだけの巾の通路が必要であるというべきである。

6  被告先代の取りつぶしによつて巾一メートルとなつた旧道路ではリヤカーの通行さえ不可能であるから、右取りつぶしの結果として原告は前掲三筆の所有地に関して被告ら所有地につき囲繞地通行権を有するに至つたものであるが、その場所としては、現に被告らが通路としている別紙図面表示B・A間の新通路と、原告所有地から右新通路に至る最短距離であるC・Bを結ぶ通路部分とが最も囲繞地にとつて損害が少いということができる。

7  そこで原告は被告らに対して別紙目録記載の右通路部分につき囲繞地通行権を有することの確認ならびに同通路部分の通行に関し妨害の予防を求める。(右に対する被告の認否)

原告がその主張の土地三筆の所有者であること、及び被告先代が原告主張の位置に新たな通路を開設したこと、はこれを認めるが、その余は争う。

原告所有の前記三筆の土地は袋地ではなく、南方町道に通ずる他の公路に直接接している。従つて被告所有地内に通行権を主張することは許されない。

三、証拠<略>

理由

原告が三潴郡城島町大字江上上字大中島三〇五番田一九八平方メートル、同所三〇六番田三二三平方メートル、同所三〇七番一宅地92.56平方メートルを所有していることは当事者間に争いがない。

原告は、右三筆の土地は巾約一メートルの通路によつて公道に通じているのみで実質的な袋地に該当する、と主張する。

よつて検討するに、<証拠>を綜合すると、

(1)  右三筆の土地は原告の住居のある宅地とその屋敷前の二枚の田地とであること、

(2)  右原告方からは、南方の大きな町道へ概ね真直ぐに通ずる延長六〇メートル余のあぜ道(別紙図面表示のF・E間を結ぶ線)と、原告方から西方被告秋次方の前及び被告後藤吉蔵方の前を通り同被告方田地の間を抜けて西南方へ向い前同様大きい町道へ出る延長一二〇メートル余の道(別紙図面表示F・C・B・Dを結ぶ線)とがあること、

(3)  F線でつながる右二つの道は、城島町の道路台帳にD・B・C・F・E間を結ぶ町道二六号線延長一八六メートル巾員0.9メートルとして登載されているものであること、

(4)  F・E間のあぜ道は、道路台帳上町道として登載されてはいるものの、字図上に道としての表示はなく、実際も普通の道としては利用されず、特に必要ある場合にだけ辿り歩く単なる田のあぜとして放置され、巾員もその上面ではもとより基底部でさえも台帳面の0.9メートルに達しない部分があり、車両は自転車といえども通過することが困難な状況にあること、

(5)  これに反し、C・B・Dを結ぶ道は古くから約1.6メートルの巾員を有し、原告方、後藤鉄次方、被告後藤吉蔵方とも右C・B・D間の道を公道(南方の大きい町道)への通路として通行して居り、リヤカーはもとより、多少無理をすればオート三輪車も通れぬこともない状態にあつたこと、

(6)  原告方は戦前から農業を営むもので、別の箇所にも農地一反歩余を所有耕作しているが、農作業や行商などに必要なリヤカーは従来右C・B・Dを結ぶ道を通行し得て、別段不自由はなかつたこと、

(7)  ところが、被告らの先代敬吉及び被告吉蔵は昭和四三年一月頃、原告には何の相談もなく、右C・B・D間の道は町の台帳面のとおり巾員は0.9メートルだけあれば足りるとしてその巾を一メートル前後に削り、別に自宅前から真直ぐに南方の大きい町道に通ずる別紙図面表示B・A間の巾約3.5メートル長さ約60.5メートルの道路を建設したが、右通路の建設に原告が協力しなかつたとの理由で原告に対しては右B・A間の新通路の通行を拒否していること、

これに対して町当局は、右C・B・D間の道は台帳面のとおり0.9メートルの巾員が保たれていれば被告側のとつた右措置について格別干渉することはできない、との態度をを保持していること、

(8)  そのため原告は、公道から従来のC・B・Dを結ぶ道を通つて一二〇メートル余も入つた場所に居を構えながら、農作業等のためのリヤカーの使用もできなくなり、生活上多大の不便を蒙るに至つたこと、

そこで原告は、町当局の仲介を求め、被告らの先代敬吉にF・E間のあぜ道を拡巾するに必要な同人所有の田地を原告所有の田地と交換することを申し入れたが拒否され、更に久留米簡易裁判所に敬吉らが新たに開設したB・A間の通路の使用の許諾方を求める調停を申し立てたがこれも拒否され、結局同裁判所に仮処分命令を申請し、仮処分によつてC・B間の通行部分をもとどおり巾約1.6メートルに拡巾した上でC・B・A間の通路の通行を許容され、爾来これを通行の用に供していること、

を肯定するに足り、右認定に反する証拠はない。

そうすると、前記原告所有の三筆の土地は全く公路に接していないわけではないけれども、南方の大きい町道から原告方までの距離を考慮に入れると、少くともリヤカーの使用は原告方の従前からの家業の一部である農作業に不可欠であると認むべく、従つてその必要をみたすことのできない前記D・B・C・F・Eを結ぶ町道二六号線があるからといつて、原告方から南方の大きい町道へ出るための通行をすべて右二六号線によるべしとすることはできない。

その意味において、前記原告所有の三筆の土地は車両の通行に関してなお袋地に該当するといつて妨げない。

そして、B・A間にはすでに被告らの先代によつて開設された巾約3.5メートルの通路が存在すること、原告所有地から右通路の起点B点に至る最も近接した地点C点と右B点との間にはもともと巾1.6メートルの通路があり、仮処分の執行としてではあるがすでに巾1.6メートルの通路が復旧されていて、一旦これを巾0.9メートルに削つた被告らの側の経済的な損失もその延長が検証の結果によると一七メートルにすぎないことからみて大した負担とはいえないこと、を考慮すれば、原告方から南方の大きい町道へ出るため通行すべき囲繞地のうち所有者のため最も損害の少いのは、原告主張のとおり別紙目録記載の被告ら所有地の一部C・B・Aを結ぶ右通路部分であるといわなければならない。

そして現代の社会生活上、できるだけ多くの住居に各種自動車の乗入れができることが居住者だけでなくその地域社会全体の利益にも合致するところであるから、原告の日常生活上リヤカーの通行が許容されれば一応最低限の必要は充足されるものとしても、なお右通路部分が自動車も通行し得る現況にあるかぎりにおいては、原告方に往来する他の自動車の通行の用に供することを拒否すべき理由はなく、結局通行すべき車両の種類に関しては別段制限を付する根拠はないというべきである。

これに反し、原告方からの単なる徒歩による通行のためには狭いながらも前認定の町道二六号線が存在するのであるから、原告がその主張の被告所有地に関し通行権を有するのは車両を通行せしめる限度においてであつて、単なる徒歩の通行に関して権利を有するものではないとしなければならない。

それゆえ、原告の本訴請求中通行権の確認を求める部分は以上の限度において理由があり、これをこえる部分はその理由がないというべきである。

そして、被告らの先代及び被告らの従前の態度方針にかんがみれば、右許容せらるべき原告の囲繞地の通行に関し妨害の予防を求める部分の原告の請求も理由があるというべく、許容せらるべき通行以外に関し妨害の予防を求める部分は前同様失当とせらるべきである。

よつて右両請求を車両の通行に関する分に限定してこれを認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(蓑田速夫)

目録

三潴郡城島町大写江上上写大中島三一一番、三〇四番、三〇三番の各土地のうち、

(1) 別紙図面表示C点(原告所有同所三〇五番の田の北西の角)とB点(被告所有同所三一三番の宅地の人口西側の石垣の角)との間の、北側が堀と石垣の根に沿う巾1.6メール長さ17メートルの、ほぼ東西に通ずる通路に含まれる部分、及び

(2) B点からほぼ南の方角に通じ南方の町道にA点で接する巾約3.5メートル長さ約60.5メートルの通路に含まれる部分。

(原告所有地から町道に至る間の同図面に赤斜線で表示したC・B・Aを結ぶかぎ形の通路に含まれる部分)        以上

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